名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和43年(ワ)48号 判決 1970年5月25日
原告
中山義雄こと朴相奉
被告
平野憲雄
主文
一、被告は原告に対し、金一五二二万八一〇〇円および、うち金九四一万七四〇〇円に対しては昭和四三年三月九日からうち金五八一万〇七〇〇円に対しては昭和四五年一月一三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
一、原告のその余の請求を棄却する。
一、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。
一、この判決は、原告勝訴部分に限り仮りに執行できる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
「被告は原告に対し、金三四六九万六〇八〇円及び内金一九六七万一六〇〇円に対しては訴状送達の日の翌日から、内金一五〇二万四四八〇円に対しては訴状変更申立書送達の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決並びに仮執行の宣言。
二、被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」
との判決。
第二、原告の請求原因
一、本件交通事故の発生
1 日時 昭和四二年七月二二日午後一一時四〇分頃
2 場所 豊川市中央通り三丁目一九番地先交差点
3 加害車 普通乗用自動車(愛五や八六八七号)、運転者被告平野憲雄(以下、「被告車」という。)
4 被害車 普通乗用自動車(三河五そ六〇一号)、運転者青田健司(以下「原告車」という。)
5 事故の態様 右場所において南進して来た加害車が西進していた原告車の後部側面に激突して原告車を横転させたため、原告車後部座席に搭乗中の原告は負傷した。
6 事故の結果 原告は第三、第四胸椎骨折、第五胸髄以下半身完全麻痺、仙腰部褥創形成の傷害を受け、事故当日直ちに入院し、あらゆる治療を受けたが、第五胸髄以下完全麻痺は依然として残り、全く再起不能の状態にある。
二、被告の過失及び責任
前記事故(以下、本件事故という。)の発生について、被告には前方注視義務違反がある。すなわち、原告車は通称姫街道を西進中本件交差点の約七〇米手前の地点で後続のタクシーに道を譲り道路左側を進行していたが、本件交差点には信号機が設置してあり、原告車がこれに差しかかつた際、信号機は黄色の点滅信号を示していたので、時速三〇粁ないし四〇粁位に減速して注意しながら本件交差点内に進入したところ、被告車は高速度で南進し来りその対面信号は赤色の点滅信号を示していたから、一時停車をなし、前方左右を注視し安全を確認した上進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、一時停車をなさず、前方の安全を確認せずに漫然本件交差点内に進入して原告車に衝突し、本件事故を発生させたものであるから、被告車の運転者たる被告には重大な過失があり、民法七〇九条により原告の被つた後記三の損害を賠償する責任がある。
三、損害
(1) 逸失利益
(イ) 原告は事故当時豊川市代田町二丁目二番地所在小林建設株式会社に鍛冶工工長として勤務していたもので社会保険料、所得税を控除して少くとも一ケ月平均八万円の収入を得ていたが、事故によつて下半身完全麻痺となり労働能力を一〇〇パーセント喪失した。そのため右職場を去らざるを得ず、全く収入の道が杜絶した。原告は事故当時満二八才(昭和一四年三月一九日生)の極めて健康な男子で、同年令の男子の就労可能年令は六三才とみるのが相当であるから、事故がなければ、なお、今後三五年就労し得たはずである。
よつて、右期間における収入は、月額八万円、年額九六万円として、三五年間の全収入は合計三三六〇万円に達するが、これからホフマン式計算法により民法所定の年五分の中間利息を控除すると、金一九一一万三六〇〇円となる。
(ロ) 出来高差額金の逸失
原告は、勤務先から、前項(イ)の給与のほか、出来高差額金として昭和四二年五月分一万九九六四円、同年六月分一万〇三六五円、同年七月分四万〇九八九円、以上三ケ月分平均約二万七〇〇〇円の収入を得ていたものであつて、一ケ年二七万六〇〇〇円の利得となり原告の今後の就労可能年数は三三年であるから、これをホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、金五二九万三六八〇円となる。
(2) 付添費
原告は前記のとおり下半身完全麻痺となり起居が全然不可能となり、用便も他人の手を借りねばならないところ、原告を扶養すべき妻富子(昭和一七年二月一〇日生)は長女里美(昭和三九年一二月三〇日生)、二女秀子(昭和四一年七月三一日生)、長男暢義(昭和四二年一一月一二日生)の三名の幼児を抱え、その養育のため他で働いて収入を得ることもできず、生活扶助を受けてようやく生計をつないでいる次第であつて、常時原告の傍にあつて身の廻りの面倒をみることは到底期待できないから、付添人を頼み入院看護させる必要に迫られている。被告において、原告に生ある限り、これに付添人を付して静かに療養生活を送らせる責任のあることは当然である。そして、付添看護人を付するには、最小限一ケ月四万五〇〇〇円、一ケ年では五四万円を要することとなり今後原告の生存年数は三〇余年あることは総計の示すところであるから、右のうち要付添人期間を三〇年とし、前同様ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、合計九七三万〇八〇〇円を要することとなる。
(3) 入院諸経費
(イ) 牛乳代、一万八〇〇〇円。昭和四二年九、一〇、一一月分。
(ロ) 子守賃、四万円。昭和四二年七月二二日から同年一〇月までの分。
原告の入院中支出を要した費用である。
(4) 慰藉料
原告は、生来極めて健康体で、前記妻子四人と共に前記収入により一家団らんの生活を楽しんで来たところ、突如本件事故による受傷のため、病床に苦呻すること久しいが、下半身完全麻痺となつて全治の見込なく、青春の身であるのに今後一生不具者として過さねばならず、妻子四人を抱えて明日の生活設計も立たず、前途暗澹たる状態にあるから、これが慰藉料としては金二〇〇万円が相当である。
四、結論
よつて、原告は被告に対し、以上の合計金額から保険金として給付されると思われる金一五〇万円を控除した金三四六九万六〇八〇円及び、内金一九六七万一六〇〇円に対しては訴状送達の日の翌日から、内金一五〇二万四四八〇円に対しては訴状変更申立書送達の日の翌日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三、請求原因に対する答弁
(一) 請求原因第一項について
1ないし4の事実及び5のうち原告が負傷した事実は認める。
その余の事実は争う。
(二) 同第二項、第三項の事実は、いずれも争う。
第四、被告の主張及び抗弁
一、被告は、昭和三八年七月普通免許を取得してから本件事故まで無事故無違反の模範運転者であり、昭和四一年九月愛知県公安委員会の指定試験に合格し、事故当時蒲郡自動車学校の指導員をしていたものである。
二、被告は、本件交差点において右折しようとして、時速三〇粁以下に減速し左右の安全を確認して本件交差点内に入り、右折態勢に入つたところ、訴外青田運転の原告車が突如道路中心線をはみ出て道路中央部分を時速六〇粁以上の高速度で左方の側方道路から同交差点内に突入し、ブレーキも掛けずにすでに右折態勢に入つていた被告車の左前部に激突した。以上のとおり、本件事故は、専ら訴外青田の前方注意義務、徐行義務各違反の重過失によつて発生したものである。
三、損害額の算定について
(1) 原告の純収入は、一ケ月約金四万二二二五円を超えない。
(イ) 原告の如き職種、特に収入が毎月の出来高によつて左右される場合には可能な限り長期にわたる過去の実績を平均化して月収を算定すべきである。
乙第一号証によれば、九ケ月間の現実受給額総計は金五二万七八一四円であり、一ケ月平均は五万八六四六円である。(原告は単なる三ケ月の給料総額を平均しているが、税金その他の控除金を差引いた現実の給付額を基礎とすべきである。
(ロ) 松井証言及び原告の妻の証言によれば、右収入を得るため原告は配下の人夫等の管理のため相当額の交際費の支出を余儀なくされて居りその額は下収の二割を下らない。
(ハ) 従つて、原告の真実の一ケ月の純収入は、五万八六四六円から一万〇五五六円を控除した金四万二二二五円である。
(2) 出来高差額金について
原告主張の「出来高差額金」は、証人松井の供述に照らせば、本来労務者各個人に対して支払われるべき賃金相当分であり、いうなれば一種の「ピンハネ」に該当する。従つて仮りに若干の差額金収入があつたとしても、それは不法な原因による所得であるから、その喪失は法による救済を受けない。
右は予見不可能な特別損害と見るべきである。
(3) 原告の就労可能年数は、その職種にかんがみ二七年と見るべきである。原告は、一般的な事務労働の就労可能年限である六三才を用いて残余三五年と主張しているが、高度の肉体労働を伴う原告の職種にかんがみれば就労年限は五五才と見るべきであり、従つて残余年数は二七年である。
(4) 原告は、損害額算出に当つてホフマン方式を採用しているが、本件の如く被害が高額にのぼり、且つ、就労可能年数が二〇年を超える長期にわたる将来の逸失利益を算出するについては、ライプニツツ方式を用いるのが合理的である。
ホフマン式を用いるときは、就労可能年数が三六年に及ぶとその係数は二〇・二七となり〇・〇五(年五分)の逆数からいうと「得たる元金を年五分で預金しておきその中から毎年逸失利益に相当する金員を支出して行つても、三六年先には元金はそのままそつくり残つている」という不合理に陥るのである。
大阪地裁及び千種達夫元判事等がライプニツツ方式を採用される所以である。
不件をライプニツツ式で算出すると、
504,000円×14,643=5,857,200円
となる。
又、仮に原告主張のとおり一ケ月平均八万円程度の総収入があつたとしても、
(月収80,000円-経費16,000円)×14,643=11,548,804円
である。
(5) 付添費について
付添看護の必要性、必要期間、必要費用等はすべて争う。原告主張の九七〇万余円を年六分で預金すると、年間約五八万円の利息を生ずるから、毎月仮りに四万五〇〇〇円の看護費用を支出するとしても年間合計五四万円にしかならないので、三〇年後には元金がそのまま残る計算となり、原告主張の算定方法は不合理である。
四、過失相殺の抗弁
(1) 本件事故は、原告車運転者青田の除行義務違反の過失(黄色の点滅信号を無視した突入)と被告の過失との競合によつて生じたものであることは明白である。
そして、原告は原告車を所有し、その運転を青田に依頼して、自らは後部席席において右を下にして横に寝そべり、身体を不自然に曲げて足を助手席の上に投げあげて仮眠していたものであるから、原告は本件車輌の運行を現に支配し、かつ、その運行利益を享有していたことになり、その運転車の危険は同時に原告が負担しなければならない。原告車の運転に関する限り、原告と訴外青田とは使用者と被用者の関係にあるものというべきであつて、その場合訴外青田の過失は、民法七二二条の被害者側の過失に相当し、加うるに、原告自身の前記の如き不自然な乗車方法が傷害の程度を重くする一因になつているので、これは被害者自身の過失とみるべきであつて、原告側の過失と被告の過失とを対比すると、その割合は四対六とみるのが相当であり、賠償額の算定にあたつてこれを斟酌すべきである。
第五、被告の主張に対する原告の答弁
原告側に過失あることその他原告の主張に反する被告の主張事実はすべて否認する。
第六、証拠関係〔略〕
理由
一、(事故の発生)
請求原因第一項の交通事故が発生し、原告が受傷したことは事故の態様及び原告の受傷の部位程度を除いて、当事者間に争いがない。〔証拠略〕を総合すると、右事故により原告は第三、第四胸椎骨折、胸髄損傷、第五胸髄以下下半身完全麻痺の傷害を受け、事故直後野本医院で応急的治療を受け、重傷のため翌日国立豊橋病院に転送されて直ちに入院し、同四三年四月一〇日同病院を退院した。その間牽引療法により治療したが、第五胸髄以下の下半身麻痺はそのまま後遺症として残り、労災保険一級に該当する最も重い後遺症と認定された。そして同年五月頃から同年八月三一日まで中部労災病院でリハビリテーシヨンを受けたが専門医師の所見によれば、訓練による回復は本質的に不能であつて、第五胸髄以下の痛覚、触覚、運動神経が麻痺しており、大小便も不順、不如意で、支えがあれば上半身を起すことが可能な程度であつて、将来回復の見込はない。以上のとおり認められ、他に右認定に反する証拠はない。
二、ところで、事故発生の状態および両車運転者の過失割合については争いがあるので、まずこれを判断する。
〔証拠略〕を綜合すると次の事実が認定できる。
事故地点は、北側は幅員九・三米の、東側、南側、西側はいずれも幅員一〇米の各車道が直角に交わる交差点で、信号機が設置されているが、事故当時はその信号表示による交通整理は行われておらず、被告車は北方から時速約六〇粁の速度で右交差点手前に差しかかつたところ、折柄対面信号は赤色の燈火の点滅を表示していたので、一旦停止すべきであつたのに、時速三〇粁位に減速し、交通閑散であつたためそのまま交差点内に進入しようと進行を続け、交差点手前の横断歩道を通過する頃原告車を左前方一二・一米の地点に発見し、直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、被告車左前部を原告車の右側部中央辺に衝突させ、両車とも横転させるに至つたものである。
他方、原告車は東方から時速四五粁位の速度で本件交差点手前に差しかかり、折柄対面信号は黄色の燈火の点滅を表示していたので、他の交通に注意して進行すべきであつたのに、少し減速し時速四〇粁位で交差点に進入し、被告車の接近に全く気付かず直進通過しようとしたものである。本件交差点への両車の進入時期は殆んど同時である。なお、被告車は本件交差点で右折しようとしたものである。
原告車運転者青田は、交差点進入時の被告車の速度はかなり高速であつて衝突地点より二〇米も先で横転したと供述するが、両車とも警察官到着まで事故当時のまま保存されたことは同人の供述により明かであつて、甲第四号証により認められる被告車のスリツプ痕及びその停止地点に照らし、必ずしも措信できない。
右の認定事実からすれば、原告車、被告車共にかかる交差点進入時に要求される注意義務を怠つていたことは明らかであるが被告車は一時停止義務を遵守しなかつたこと、また原告車は被告車の左方から交差点に入り直進車であるのに、被告車は右折車であつたから、被告車は当然原告車の進行を妨げてはならなかつた筈であること、一方原告車運転者は被告車の接近に全く気付かず制動をかけなかつたこと等を勘案すると、その過失割合は原告車三に対し被告車七と見るのを相当とする。
被告は、原告が原告車の後部座席に右を下にして横臥し身体を不自然に屈曲させ足を助手席座席の上にあげて仮眠していたためその傷害の程度が重くなつたと主張し、〔証拠略〕によれば原告が右の如き姿勢(但し助手席の背あて部分を前方に倒してその上に足を乗せていたもの)で乗車していたことが認められるが、右の如き姿勢は安全な姿勢でないことはもちろんであるとしても、車の横転は当然予想されるものでなく、従つてこれに対処する注意義務はないものと謂うことができ、且つまた右安全を欠く姿勢が傷害の程度を加重していることはこれを認めるに足りないので斟酌しない。
三、被告の過失によつて本件事故が発生したことは前示のとおりであつて、民法七〇九条の規定により原告に生した後記損害を賠償すべき義務がある。
四、そこで、原告に生じた損害及びその額について判断する。
(一) 逸失利益
〔証拠略〕によると、原告は、事故当時満二八才の極めて健康な男子で、昭和三九年一〇月から小林建設株式会社に鍛冶工として勤務し、熟練者であつたので、事故当時工長の職にあつたことが認められ、前記認定のとおり原告は本件事故により回復の見込のない下半身麻痺の後遺症が残つたため今後生涯を通じ労働能力の全部を喪失したものと認めるのが相当である。
〔証拠略〕によれば、原告は昭和四一年一〇月から同四二年七月までの一〇ケ月に、社会保険料及び所得税を控除し合計六七万〇九六九円の賃金収入のあつたことが認められるから、原告の年収を八〇万五〇〇〇円(千円未満は四捨五入する)と認めるを相当とする。
ところで、厚生省大臣官房統計調査部作成の第一二回生命表によると、満二八才(原告は事故当時満二八才とほぼ四月であつたから満二八才とみる。)の男子の平均余命は四二・七五年であるが、原告がもし本件事故にあわなければ、その職業、健康状態等に照らし、少くとも満六〇才に達するまでの三二年間は就労可能であり、その間前記年収八〇万五〇〇〇円を下廻ることのない収入を得ることができたものと推認できる。年数長期の中間利息控除に際しては、現時の経済社会において、銀行預金、郵便貯金等をみても、貨幣資本の利殖は六ケ月又は一年を一期とする複利計算を採用しているから被告主張三、(4)を合理的であると認めて、逸失利益の現価計算の方法として複利割引法たるライプニツツ法を採用することとし、これにより計算すると、一年ごとに金八〇万五〇〇〇円の収入が生ずるものとして、年利五分、三二年のライプニツツ係数一五・八〇二六を掛けて算出すると、金一、二七二万一〇九三円となる。
次に、原告主張の出来高差額金の逸失について考えると、〔証拠略〕によれば、原告の勤務先である小林建設株式会社は、前掲乙第一号証(賃金台帳)記載の給与のほか、「出来高差額金」の名称の下に原告等工長の職にある者に金員を支給していたこと、そして原告等工長は配下の工員を仕事に精励させるべく饗応するのに右金員の一部をあてていたことが認められるが、右金員は同会社の帳簿には外注費として記載されていて、いわゆるヤミ給与の性格を有し、昭和四二年三月には支給されていないから、これを恒常的な収入と認めることには問題があり、結局算定不能の雑収入とみるほかない。従つて、出来高差額金についての逸失利益の請求は排斥を免れない。
(二) 付添費
前記認定の原告の受傷の部位程度、その治療経過、後遺症の症状と証人中山富子の証言を総合すれば、原告主張のとおり付添看護人の必要なことが認められる。その必要期間については将来三名の子が成人して養育監護の必要がなくなり、却つて原告の世話をするに至ることもその可能性がないとは云えないが、身体障害者の看護に人手の要することは多言を俟たないから、原告主張どおりこれを三〇年と認めるを相当とする。
〔証拠略〕によれば、愛知県看護婦家政婦あつ旋所組合では、せき損、脳卒中その他重症の病人の看護補助者の家庭料金を賃金一日一、六五〇円と規定していることが認められるから、これを少くとも一日一、五〇〇円とみて、原告主張どおり一ケ年に五四万円を安するものと認めるを相当とする。これを前記(一)同様ライプニツツ法により、年利五分、期間三〇年として、その係数一五・三七二四を掛けて算出すると、金八三〇万一〇九六円となる。
(三) 入院諸経費
(1) 牛乳代
一万八〇〇〇円、証人中山富子の証言によれば、原告主張額を支出したことは認められるが、同証言によれば、被害者本人以外の摂取分も含まれていてこれを区別することはできないものと認められ、入院中患者に必要な食事は支給されており、右支給外の栄養物の摂取は医師の指示のあるときにのみその必要あるものと認められるところ、医師の指示に基くものであることはこれを認めるに足りないがこれを入院雑費の請求と解して、入院一日につき金二〇〇円を相当と認め、原告主張の三ケ月分として、主張金額を認める。
(2) 子守賃
証人中山富子のこの点に関する証言部分は、前後相違しその供述内容があいまいであるからにわかに措信できず、他にこれを認めるに足る証拠がないから、右支出を認めることはできない。
以上(一)、(二)、(三)の(1)の各金額が原告が本件事故により被つた財産損害といえるが、本件事故については原告側にも前記認定のとおり過失があるので、これを斟酌することとし、原告が被告に対し請求できる右損害額を(一)八九〇万四八〇〇円、(二)五八一万〇七〇〇円、(三)の(1)一万二六〇〇円とするのが相当である。
(四) 慰藉料
前記認定のような本件事故の態様、原告の受傷の部位程度治療の経過、後遺症状の内容程度並びに本件証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すると、原告に対する慰藉料は原告主張額の金二〇〇万円をもつて相当と認める。
(五) 損害の填補
原告は、前記の財産上の損害および慰藉料から、強制保険より一五〇万円支払われることを予定してこれを控除する旨申立てており、右一五〇万円は原告の後遺症が自賠法施行令別表に定める後遺障害級別の一級に該当するものとして、後遺障害補償費として支払われることを予定したものと解されるので、申立どおり控除することとし、その充当はその五分の三に当る九〇万円を前記逸失利益(一)八九〇万四八〇〇円から、五分の二に当る六〇万円を前記慰藉料二〇〇万円からそれぞれ控除する。
五、結論
よつて、被告は原告に対し、以上の合計金一五二二万八一〇〇円を支払う義務があり、原告の本訴請求は、原告が被告に対し、右金員及びそのうち金九四一万七四〇〇円に対しては本訴状送達の日の翌日であること記録上明かな昭和四三年三月九日から、金五八一万〇七〇〇円に対しては訴状変更申立書送達の日の翌日であること記録上明かな昭和四五年一月一三日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余の請求を失当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木照隆)